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法定の主題(発明の成立性)についての暫定ガイドライン(米国)  

古谷国際特許事務所ニュースレター160号
(C)2010.78FURUTANI PATENT OFFICE
2010.8.19



概要


 米国特許庁は、ビジネス方法の特許性について争われた最高裁判決を受けて、これまでの暫定インストラクション(2009年8月発表)に追加する形で、2010年7月、法定の主題に関する暫定ガイドラインを発表した。米国特許出願において実務的に重要な事項であるので報告する。なお、法定の主題に合致するかどうか(patent eligibility)は、日本における「発明の成立性」(29条1項柱書き)に対応する概念である。この報告では、「特許適格性」という文言を用いた。



1.これまでの経緯


(1)CAFCのBilski判決
 2008年10月、CAFC(連邦巡回控訴裁判所)は、ビジネス方法の特許性についての判決(Bilski判決)を出した。この判決においては、これまでの特許庁の運用(抽象的なアイディアでない限りビジネス方法も特許対象となるという運用)を否定する判断基準が出された。これが、machine-or-transfomation テストである。machine-or-transfomationにおいて示された基準は以下のとおりである。
 方法クレームにおいて、i)特定の機械の使用が意味のある限定となっており、とってつけたような重要性のないものでないこと、またはii)対象の変換が意味のある限定となっており、とってつけたような重要性のないものでないことの何れかの場合には、101条の法定の主題に該当して、特許対象となるというものである。
 この基準によれば、従来、特許可能であるとされてきた純粋なビジネス方法(コンピュータを使用しないビジネス方法)のほとんどのものは、特許されないこととなった。

(2)暫定インストラクション
 2009年8月、上記CAFCのBilski判決を受けて、米国特許庁は、保護適格性(発明の成立性)に関する暫定インストラクションを発表した。このインストラクションは、保護適格性全般に関する審査方針を定めている。インストラクションに記載された、保護適格判断の審査フローチャートは以下のとおりである。



(3)Bilski最高裁判決
 2010年6月28日、米国最高裁は、Bilski事件の判決を出した。この判決においては、CAFCがビジネス方法の特許適格性の判断基準として示したMachine or transformationテストが妥当であるとしつつも、この基準が特許適格性判断の唯一のものではないと示した。



2.暫定ガイドライン


 2009年8月に、米国特許庁が発表した暫定インストラクションは、CAFCのBilski判決に基づくものであった。上述のように、最高裁は、CAFCの判決をそのまま維持したわけではない。そこで、2010年7月27日、米国特許庁は、Bilski最高裁判決を受けて、上記の暫定インストラクションに追加する形で、暫定ガイドラインを発表した。
 この暫定ガイドラインは、上記暫定インストラクションのうちの、方法クレームについてのみ修正を行うものである。したがって、機械、製品または組成物については、前述の暫定インストラクションが依然として適用されることになる。
 方法クレームについては、前頁の方法クレームの場合のフローチャートに加えて、以下のようなファクターにより、適格性があるかどうかを判断する。





 この暫定ガイドラインでは、審査官は、Machine or transformationテストにて法定の主題であるかどうかの判断を行って拒絶理由を出すとの運用が示されている。その上で、上記ファクターを考慮した出願人からの反論を待って、最終的な判断を行うとしている。



3.まとめ


 BilskiのCAFC判決により、純粋なビジネス方法の特許可能性が否定されたが、最高裁判決によって、やや、その扱いが緩くなったように思われる。とはいえ、Bilski判決以前のように、コンピュータを用いない方法も、一律特許性があるという運用から見ると、厳しくなったというべきであろう。結局のところ、米国におけるビジネス方法の特許性については、日本の運用にかなり近づいたということができる(もちろん、日本よりはハードウエア資源の利用についての要求は緩やかである)。
 実務的には、多くの場合、Machine or transformationテストによって法定の主題であるかどうかが決定され、これが覆る場面はかなり限定されるであろう。つまり、2009年8月に公表された暫定インストラクションが基本的に用いられ、今回の暫定ガイドラインは、限定された場面で用いられることになると思われる。





NOTES


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